ニコニコ通り

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ここらでひとつ、、、ノビコの現状

ドイツに移住してもうすぐ3年。

私の今の生活の90%はうどんBAR&カフェ「ノビコ」にあります。

誰かに雇われる事なく、ドイツで暮らしていくために選んだ道で、大変だけどやりがいもあって、全然後悔はしていません。ただここ数ヶ月、現実の壁にぶつかりまくっていて、いろんな事を考えさせられたし、お店の今後については不安も大きい。

毎日仕事ばかりで、SNSにはたまにしか投稿しないし、しても「いいね!」と言われるような事しか書いてなかったので、「充実してんだな〜」と思ったみなさん。ご安心ください。現実はそんなに甘くないって事を、ここにしっかり記しておきます。


まず、ノビコとしてのこの1年は、決して順調ではなかった事。様々な試行錯誤があったけど、今ある問題の根本は解決しておらず、今後も色んな調整をしていかなければいけない事。この問題について考えたとき、社会のシステムや飲食業界全体の問題とも無関係ではない事。そんなノビコのこの1年の経緯や失敗やこれからを、ここらで一度ちゃんと記録しておこうと思い、休暇先のイタリアのど田舎でパソコンを叩き始めました。(で、休暇から帰ってもう1ヶ月以上が経った今、やっと書き終えるという。。。)
長くなると思うし、項目ごとになるべくわかりやすく書きたいと思います!

 

 

1、赤字街道まっしぐら

一年位前、オープンして4ヶ月ほど経ったノビコの状況をブログでも報告した時は、経営的に順調だと思えた。お客さんは多いし、お店が回らないからスタッフを増やし、必要な設備を整える余裕もあった。しかし根本から間違っていた事が一つ発覚。

経営者である3人の雇用体制だ。ノビコには社長がいないので、私たちのイメージでは3人とも個人事業主として店に関わっていて、ノビコとは雇用関係を結ぶ必要はないと考えていた。だから健康保険や年金などの社会保障は個人で加入し個人で払うのだと思ったのだが、どうやら根本からそれが間違っていて、3人ともノビコと雇用関係を結んだ上で、従業員として社会保障等もカバーされていなければいけない事が発覚したのだ。まあ実際、私だけは個人事業主になるために必要な書類が色々あって面倒だった為、最初から雇用関係にあったんだけど、他の2人も同様の条件で雇用されていないといけなかった、という事なのだ。

それで何が起きたかというと、2人の社会保障にかかるお金を2018年4月まで遡り、まとめて払わなくてはいけなくなった。残念な事に2人とも健康保険は加入して支払っていたが、年金や雇用保険は払っておらず、それを2人分まとめて払うとなると、かなりの額になる。しかも発覚したのは3月頃だったので、ほぼ1年分。その時点で既にスタッフは私たち3人を入れて15名。給料払うだけでも大変なので、お店にこれを払う余裕などなかった。お金は友人や親から借りるなどしてなんとかしたが、ついに、まあまあ大きい借金ができた。

経理や雇用関係のことは、スタッフの一人が大体やってくれていて、その分野の勉強もしていたけど、経験は浅く、認識に間違いがあっても仕方ない。まあ数年後にわかるよりは良かったし、3人ともが同じ雇用関係になった方が、将来的には良いと思えた。

ただ、経理を担当していたスタッフの負荷も大きかっただろうから、もっと多くの事をプロの税理士にお任せしよう、ということになった。ともあれこれがノビコの失敗の第1波となり、経理関係を税理士に任せたことで、さらにもう一つ大きなミスが発覚した。

 


2、忘れちゃいけない消費税の恐怖

ドイツの消費税率は一般で19%、生活必需品等に適用される軽減税率は7%だ。その中でレストランでの食事は19%、テイクアウトであれば7%なので、私たちの売上のほとんどに19%の消費税がかかってしまう。仕入れにかかる消費税は返ってくるとはいえ、大きい数字なので注意しないとね、という話はお店が始まる当初からしていたし、もちろん経理スタッフがそれを計算し、毎月支払っていた。

が、しかし。上記の一件から税理士に経理を任せたところ、「お店の経営状態、全然良くないですよ〜」との報告が入り、「あれ?思ってたんと違う!」と大慌て。確認したところ、毎月経理のスタッフがあるプログラムで作成していた収支報告書に、消費税の計算が入っていなかった事が4月に判明。消費税を支払ってはいたけど、収支報告書の支出からは漏れていた、という超初歩的ミスで現実と認識のズレが生じていた。つまり、例えば1000€の黒字と収支報告書にあっても、そこから消費税分2000€が引かれれば実際は赤字、ということになる。収支報告書を信じていた私たちは、まだ余裕があると勘違いして、人もどんどん雇った。そうしてオープンから1年が経った4月には、結構な赤字を抱えてる状態になっていた、という。つまり私たちにこんなにスタッフを雇う力は元々なかったって事。なんてこったい。

まあ最初から全部がうまくいくはずなんてない。赤字はこれから頑張って取り戻せる!なんてポジティブに考えてもみたが、そう甘くはなかった。ノビコのスタッフ総勢15名にちゃんと毎月給料を支払う、ということの重み。今までちゃんと見えていなかった19%の消費税。これらがしっかり見えてきて、ずっしりと私たちにのし掛かる事となった。

報告書をしっかり全員で確認していれば、こんな問題はすぐ気づけたのでは、と思うと、経理関係のことを任せっきりだったことをめちゃくちゃ後悔した。経理を担当していたスタッフも責任を感じただろうけど、これは経営者3人の責任だと思っている。

このことが大きな失敗の第2波となって、ノビコは自転車操業状態に陥り、光熱費、税金、私たち3人の給料などは遅らせるしかなくなった。最近では毎月約2000€の赤字が出ていたので、このままじゃヤバイ、という事で、具体的な策を練っているのが、今のノビコの現状なのである。

情けないけど、私たちは経営において全くの素人だと思い知ったし、反省すべき点も多いが、起きてしまった事は仕方ない。これも勉強だと思うしかない。でも19%の消費税がノビコのような個人店にとっていかに大きな負担か実感したし、税金政策全体がいかに大手企業に有利にできていて、反対に個人事業主を苦しめているかを見るきっかけにもなった。日本の税金政策についても同じ問題があると思う。

飲食業界でいうと、ドイツは日本に比べると保守的だと感じるし、個性的なお店になかなか出会えないのは、そういうニーズが追いついてないからかな、と思っていた。それでも最近は、ありきたりなレストランよりこだわりの強いオルタナティブなお店への支持も高まってきているようだし、そういう流れを後押しするためには、税金政策そのものが個人事業主をサポートするものに変わるのも大事なポイントなんだろうと思う。

 


3、値上げは免れない!

私たちは「安くて美味しい」お店が好きだし、そういうお店をできるだけ目指してきた。最初に値段を決めた時は、単純に自分ならこれくらいの値段で食べたい、という感覚を大事にした。かつ他のお店の価格も参考にしつつ、日本料理を出すお店としてはかなりお手頃だと感じるように設定した。

食材もできるだけ、余計なものが入っていない安全なものを選んだ。野菜はほとんどオーガニックだし、化学調味料や保存料が使われている材料は、ほんの一部。何より自分たちでうどんもスープも手作りしているので、何が入っているかは自分たちが一番よくわかっている。だからこそ、美味しいものができると信じているし、自分たちも安心して食べれるもの、食べたいものを、お店で出したいという気持ちがある。

でもこの「安くて美味しい」をキープしながらお店を回す事は、前述の赤字問題を踏まえても、かなり難しくなった。やむを得ず、4月にメニューの大半を20centから1Euro値上げした。それでもまだお手頃な価格帯を維持していたし、それでお客さんが離れることもなかったけど、売り上げ的にそれほど良い影響もなかった。

問題は明白で、私たちはやたらと手間をかけてほとんど手作りしているので、それにかかる時間が高いのだ。そのことを踏まえた上で値段をシビアに考えてなかったのは、最初の失敗としてあったと思うが、どれほどの手間がかかり、それをどう計算すれば良いかもよくわかっていなかった。値段をつけるのって本当に難しくて、料理を作る手間暇を消費者に理解してもらったとしても、彼らの求めているものはやっぱりお手頃で美味しいものだったりするし、貧乏人にとっては一回の食事に10€以上出費するとか普通に痛い。それじゃあたまの贅沢としてしか、ノビコを利用できなくなるし、気軽に利用できる店を目指していた私たちとしては、なんだか残念な気持ちになる。だからといって、うどんを冷凍にして、野菜をオーガニックじゃなくして、みりんや醤油も保存料が入ってる安いものに変えて、昆布出汁をインスタントにして、、、なんて考えただけでもっと残念な気持ちになる。私たちの作る楽しさが奪われるような事は、しても意味がない、と思う。

結果、私たちは来年もう一度、値上げをすると決めた。赤字から抜け出す策の一つでもあるけど、どちらかと言うとこれからもノビコを続けていくために不可欠な事として考えている。それでも手が届く程度の値段を考えたいし、どのメニューをどれくらい上げるか、は策として超重要なところ。こんな手は何度も使いたくないので、ちゃんとした計算が必要になってくるし、今度こそ意味のある値上げにしたい。お客さんの反応は不安だけど、今のところ多くのお客さんがノビコの料理に満足してくれているし、何度も来てくれるリピーターも多い。きっと理解してくれると、お客さんを信じるしかない。そうしないといよいよ続けられなくなるのは目に見えているのだから。

そしてこの問題から見えてくるのは、安いものに飛びつく消費者意識が社会をどう変えてきたかって事。

そもそも食事を安く抑えたい、という気持ちは私にもあるけど、その考え方で消費してばかりいると、結局儲かるのは大手の食品会社だったり労働搾取が横行する輸入産業だったりするのである。多少高くても、地元の食産業を応援する気持ちとか、インスタントに頼らず手作りしているレストランに対するリスペクトを持って、消費した方が気分が良い。お金がなかったら100%そうもいかないけど、そういう意識をもつ事がまず大事、と思ったりする。もちろん値段だけで良いものがどうか判断できないので、売る側のスタンスやコンセプトを知るってことも大事。もし貧乏でどうしようもないって状況なら、自分で野菜を作ってみたり、ものを消費してすぐ捨てるではなく壊れたものを直しながら大事に使ったり、リメイクしたり、生活術を身につけてクリエイティブになれれば、その方が1円でも安い商品に飛びつくよりも豊かなんじゃないかと思う。

値上げしても消費がついてくるには、みんなの生活そのものが底上げされないといけないし、みんなの消費に対する意識も変わらないといけない。これもまた政治の問題、社会の問題と言えるのかな。みなさん、周りの好きなお店が値上げを決めても、努力が足りん!だなんて思わず優しく受け入れてあげよう!値上げは売る側としても、めちゃくちゃリスクがある。できる努力はすでにしているはずだし、ノビコもお店のコンセプトを崩さない程度には仕入れ先を見直したり、次の項目で書く人件費についても、考えないといけない状況にきている。

 


4、人件費のリアル

利益を上げるために一番てっとり早い方法は、客を増やすことでも値段を上げることでもなく、経費削減だと聞いたことがある。その中でも一番大きい削減となるのが、人件費だと思う。

ノビコの人件費は、最近の売り上げの70%〜80%を占めている。どれくらいの割合が健全なのかは知らないが、素人から見てもちょっと多いんじゃ?と思う割合だ。この赤字問題をなんとかしようと思ったとき、3人でまず考えたのは、開店時間を短くする、という案だった。平日はランチタイム、ティータイムをなくして、ノビコで一番収入の多い夕方から夜のみの営業にする。土日は元々14時オープンなので、現状維持。当然働けるシフトも減るので、人件費が抑えられるということだ。多くのスタッフは、それまで希望する労働時間以上に働いていたし、それを希望労働時間内に抑えればいけるかもしれない、と改めて計算してみたが、残念ながら希望労働時間が想定するシフト時間より多く、月100時間はオーバーしていた。そのためこの案はすぐには実現できないけど、来年にはなんとかできないか、考えている。それは人件費云々の理由だけではなく、私たち3人の自由な時間をもっと確保するためにも良い案だと思ったからだ。

この赤字問題は、この開店時間を短縮する案が出たときから、他のスタッフにも共有され、このままでは続けられない事を正直に伝えた。スタッフの中には学生だったり他の仕事があったりと、たまにしかシフトに入らない人もいた。彼らはこの状況を鑑みて、自らノビコを辞める事を決めた。心苦しいし情けないけど、引き止める事もできない。それでも100時間の削減には程遠いので、すぐにできる事はスタッフの残業を減らし、その穴埋めは経営者3人がカバーする事と、忙しい夜のシフトもギリギリの人数で回す事しかなかった。一人一人の負担も増えるし、これも長く続けられるとは思わない。お店は忙しいのでスタッフは必要。でもこの人数を雇い続けるのは無理。そういう状況から、みんなが納得のいく方向にお店を持ってくために、みんなで話し合い、なんとか良いバランスを見つけ出すには、まだまだ時間がかかりそうである。

人件費を減らすって、短期的に見たら一番効果あるけど、一番難しくて大変だと感じた。スタッフみんなの生活にも関わる事なのに、そういう選択しかできない状況にしてしまった事は、どこからどう見ても経営者3人の責任だし、本当に申し訳なく思う。

それでもスタッフのみんなは、腹をたてる事もなく一緒に悩んでくれて、むしろ私たちを励ましてくれた。やってみなきゃわかんない事もあるし仕方ない、いつかまたうまく回るようになるよ、と。本当にありがたい事だ。

多分だけど、ノビコの仕事でスタッフが普段理不尽な思いをしていたり、プレッシャーを過度に感じていたら、こんな窮地に陥ったとき、お店を助けたいという気持ちにはなってくれなかっただろう。ヒエラルキーをなるべく感じさせないとか、シフトもみんなで決めて希望を言いやすくする、とか雰囲気作りの面で気をつけてきたこともあるけど、根本の労働者としての権利を守ることも大事だと思う。
例えば、風邪をひいて仕事を休んでも、責任を感じなくていいし、給料がその分減ることもない。裏を返せばそれは、誰かが病気になれば、その代わりに入るスタッフと休んだスタッフの両方に人件費がかかるので、経営的には痛手だけど、この権利はドイツで割と当たり前にある。医者の証明書があれば、一日からでも給料の70%をカバーしてくれる保険もある。日本では、有休から引かれるのが当たり前だったので、最初知った時は驚いた。でも考えて見れば誰だって病気になりうるんだし、有休から引くなんて、こっちの人から見ればそれこそ理不尽に映るだろう。だって有休というのは休暇をとるためにあるのだから。

ノビコの場合、休暇は一年間で6週間。雇用体制に関わらず、全員に与えられている。これは42日分をバラバラに取得して良いという意味ではなく、1週間単位で取得するのが基本らしい。だから週3日で働いている人は、実質1年間で18日分が有給休暇、という計算。この考え方は、日本とは根本的に違っていて衝撃だった。大事なのは休暇をとること、仕事から離れ、身体を休ませリフレッシュすること。日本の企業で働いていた時の年に10日ほどの有休では到底無理だし、大体半分くらいは風邪やら遅刻やらサボりやらで消えていた。ドイツに来て私は初めて休暇を経験したと言ってもいい。

そしてこの休暇も人件費としてはデカい。多くの人が夏に休暇を取るので、働けるスタッフも少なければ、客足も減る。しかし人件費はいつもと変わらずそこにある。経営者にとっては本当に痛手ではあるけど、これも大事な権利。まあ自分も休暇はちゃんと取りたいし、痛手だと思わずにちゃんと想定した上で、価格やら仕事量やら働ける人数やらのバランスを考える必要がある。

しかしこれらを踏まえると、ドイツでの人件費は、日本よりも大きいことがわかると思う。ちなみに健康保険や年金は、雇用主と折半で払われるので、日本と同じくらいの感覚かな。ドイツでもこれらの権利が保障されていないブラックな会社もあるかもしれないけど、ノビコの労働条件も、特別良いわけでもなく普通のレベルだ。

時給は1時間10€。最低時給より少し高いくらいだけど、これも今後上がる可能性がある。日本でも最低時給を1500円に!という声があって、私は全面的に支持したいが、中小企業の苦しさもよく理解できる。最低時給を上げる、という政策は、ただそれだけでは成り立たず、政府のサポートがなければ中小企業の切り捨てになるだけなんじゃないだろうか。飲食業界はもともと最低時給で働かされることが多いし、逆にそうでないと店が成り立たない現状があるんだと思う。その上で時給を上げるとなると、もう値上げしかないんじゃない、と思うけどそれで消費がついてくるかどうか、という不安が後についてくる。

ああ、いろんな問題が繋がっていて、いろんな事がうまくいかない無限ループが本当に解消される日が来るんだろうか。もう、全部がダメになった時に備えて、みんな畑を耕しておいた方が良いんじゃないだろうか。(まあ、すでに耕してはいるけど。)なーんてネガティブなんだかポジティブなんだかよく分からない事を思ったりもするが、もちろんノビコを諦めるのは、まだまだ早い。大変な状況ではあるけど、やめた方が良いとは露ほども思わないし、なんとかなると信じている。それはやっぱり来てくれるお客さんがいるからだし、頑張ってるスタッフがいるから、まだまだノビコには希望があるな、と心から思うのだ。

 


5、これからのこと

さあさあ、こと細かに状況を説明したけども、問題はこれからのお店のあり方だ。

先日のスタッフミーティングでは、色んなアイデアが出た。他のコレクティブ(特に飲食店)に話を聞いて参考にする、コンサルタントを頼む、クラウドファンディングをする、投資を募る、などなど、開店時間を短くすることや値段をあげること以外でできることはないか、と。

その中で個人的に面白いと思ったのは、投資を募る、というアイデア。株式会社にするとかそういう話でなくて、個人から月々いくら、という定額で支援を受けるというシステムで、農業の現場ではよく使われていたりする。でも農業の場合は、もちろんその時に採れる野菜がもらえるんだけど、例え災害や天気の影響で作物が少なかったとしても、支援額は変わらないので、農家側は一定した予算を確保できる。この仕組みが飲食店で通じるかどうかはわからないし、どうお返しできるかとかどういうシステムを作れば良いかとか、悩むポイントはたくさんある。でもなんとなく、サポーターになってくれる人がいそうな気もしているのだ。

こういうことやるのは、甘えだろうか?でも消費者を中心に据え、安いものを安く売って安く働かせることも、現実に合わせて値段を上げまくって、金持ち相手に商売するのも、どっちもまっぴら御免なので、そういう助け合いの道が選択肢としてあっても良いんじゃない?と、思ったり。

他のコレクティブと話をしてみる、横のつながりを作るっていうのも、前からずっとやりたかったこと。今もすでにサパティスタコーヒーをハンブルクのコレクティブから仕入れたり、コーラの仕入先もコレクティブ経営の会社だったりするけど、もっと顔を合わせて交流できたら面白いんじゃないかと。それで何が得られるかわからないけど、私たちのお店の立ち位置とか、目指す形がもっと明確に見えてくるんじゃないかって気がしている。

そこで合わせて思うのは、ノビコが料理を楽しむだけのレストランではなく、今まで書いてきたような社会問題を具体的にシェアできるような場所になったら、もっと素敵だな、と。例えば、ローカルな野菜よりも輸送コストがかかるスペインなどからの輸入野菜の方が安い現実とか、一方でノビコの庭で紫蘇や春菊を育てる超ローカル感とか、海藻についてのアレコレとか、きのこを地下で育てて見たらどうだったとか、他のコレクティブとの交流であるとか、そんな日常的なことを発信するだけでも、何か考えるきっかけになるかもしれないし、ご飯を食べに来た以上に得るものがあるってお店選びにとっても大事なポイント。ここでイメージしてるのは、まさに新宿BERGの壁に貼ってある「ベルク通信」なんだけど、ドイツ語の壁といつ作るのか問題を考えると、たちまち動けなくなってしまう。でもいつかそんな事もできるお店になったらいいな。

こうやって、この文章を時間を見つけてちょこちょこ書いてる間にも、私たちの試行錯誤は続いていて。値上げに合わせた新メニューを考えることもその一つ。値段を上げるためだけにメニューを改定するのはネガティブにしか映らないので、ちょっと豪華な(高価な)うどんを新しく考えたり、今ある材料でできるサイドメニューを増やしたり、トッピングのシステムを検討したり、中身を充実させる作戦も進行中。仕事は増えることになるけど、「つくる」ことはやっぱり楽しいので、今はちょっと前より気持ちも明るい。

 

2年半くらい前のブログでノビコの前身であるノビコディナーのことを書いたときは、「ドイツでBERGがやりたい」と書いた。志として当時の理想として書いたのだけど、お店の形態や場所柄を考えても、BERGのような「安い!美味い!早い!」店、高回転で毎日平均1500人来店するような店とはほど遠いどころか不可能だし、「BERGがやりたい」なんてよく言えたものだ。ビジネス書としても読める「新宿駅最後の小さなお店ベルク」という本を読んでみても、職人と作り出す味へのこだわりや、ブレない方向性、サービスや仕事に対する細やかさとか、レベルが違いすぎてこりゃ敵わん!(当たり前)ってなったんだけど、最近読み直していて、あ、これ私も同じだ!と深くうなづいてしまった箇所があった。店長である井野さんにとってのベルクとは?の答えの一つとしてあった、こんな言葉。

「まず私は「自分探し」よりも「自分のいるべき場だ!」と思ったのです。なるべく会社みたいな組織に属さず、自分で何かがしたかった。と同時に自分一人ではできないことがしたかった。誰と?何を?どこで?それらがリアルに現れる地点が、いま思えば「場」だったのでしょう。そして、私にとっての「場」とは、そうです。ベルクという店だったのです。」


私のやりたいことも「自分探し」じゃなくて「場探し」で、自分の力とかセンスとか表現とかよりも、「場」を作ることに関わりたかった。いつからか、そうなっていた。

30年近く続くベルクは、井野さんにとってリアルに自分とつながる「場」となり、信じられる「場」になった。その軌跡、歴史は何にも代えがたい特別なものなんじゃないかな、と想像する。

ノビコを作ってまだ2年も経ってなくて、お店も自分もまだまだ悩みっぱなしで安定感なくて、でも信じたい気持ちがあって。自分にとってノビコがどんな「場」なのか、言葉にできるほどの歴史もないけど、今はとにかく続けたい、維持したい気持ちで踏ん張るしかないなって思う。

例えば5年、10年続いたら、その「場」で何を思うか、今から楽しみにしながら。

 

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