ニコニコ通り

漫画、木版画、イラストなどなど、製作中。

毎日散歩ができる日々の記録 その2

ノビコを休業してから3週間が経ちました。

生活は相変わらずなんだけど、最近、日本のお友達と連絡を取ることが増え、離れていながらも色々分かり合える感じがあって、それはとてもとても嬉しい。

ヒカルさんのメールマガジンで、京都の能勢町というところでアジア野菜の種苗店を始めたイトウさんの連載が始まり、私は元々イトウさんのファンだし、初回から面白いしで、居ても立ってもいられず、久々にヒカルさんに連絡をとった。そしたらなんやかんやあって、今度は私も連載を受け持つことになってしまった!

テーマは「私とのび太がドイツでうどん屋さんを始めた話」。最初ビビりまくったけど、初回を書いてみたら、なんか楽しくなってきたので、時間の融通がきく今だからこそできるこの挑戦にワクワクしとります。月曜連載です。4月6日が初回でした。

 

それにちなんで、今のドイツのコロナ対策についても是非書いてほしい、と言われ、感染爆発の入り口にある、日本の今の状況を心配しまくっていた私は、何かの参考になるならば!と、速攻で長い長い文章を書いて渡しました。

なので、ここでも掲載しておきます。日本の状況はSNSやニュースでしか知ることができないので、何が本当に有益な情報かわからないけど、同じウィルスに対峙していることは確かなわけで、他国と比較することで、問題点や今どう考えるべきか、の参考になればいいなと思ってます。

ドイツの対策については、前回前々回のブログとも重複した内容になります。

自分の視点でしか語れないので、ドイツ全体の話として読まないよう、ご注意ください。

 

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現在、4月6日、月曜日。ドイツのケルン市で飲食店の営業停止が決まった3月16日から3週間、ドイツ全土へさらなる外出制限が出された3月23日から2週間がたつ。
私はケルンで飲食店を営んでいるので、3月16日を起点としたけど、それ以前にもすでに、学校や保育園などの休校措置、映画館やライブハウスなどイベントスペースの営業停止など、数日単位で新たな対策が取られていた。ヨーロッパでの感染拡大は、イタリアから始まり、スペイン、フランスと範囲がどんどん広がり、各国がどんどん厳しい措置を取っていくのをみて、いずれドイツもそうなっていくんだろうという心構えはあった。そして事実そうなった。
それでも他の国に比べて、ドイツは少し落ち着いている印象があるのではないだろうか。死者数が感染者数に対して少ない、PCR検査の数も比較的多く、イタリアのような医療崩壊がまだ起きていないことが理由だろうか。
現在、ドイツ全土での感染者数は、発表されているもので、100,216人。死者数は、1,602人。

3月15日あたりの話をします。周囲の国が飲食店の営業停止に踏み切っていて、ドイツもそうなるかも、と思っていた頃。私たちの危機感も徐々に上がってきて、このまま営業を継続してもいいのかどうか、悩んでいた頃だ。政府からも、あまりレストラン行ったり、集まったりしないでね〜という注意喚起がされていても、お店はほぼ通常通り賑わっていて、おいおい大丈夫なのか?と。接客に不安を持つスタッフも出てきていたし、スタッフの一人は基礎疾患があり、3月初め頃から大事をとって休んでもらっていた。
まさに今の日本がそういう時期なんじゃないだろうか。
ドイツでもこの頃、補償の話は曖昧だった。貸付制度はすでに始まっていたけど、休業を自己決定した場合、給与補償に関しては、基本的に会社が負担する、とされていたし、政府からの給与補償をもらうには、まず有給休暇を消化してから、という条件もあった。体力のない小規模事業にはなんの意味もない。
その中で、休業か?営業か?というミーティングを開いたのが、3月16日。2週間程度なら、なんとか休業できるかもしれないけど、それを今やるのが正しいタイミングなのか誰もわからない。2週間以上であるならば、補償がないと維持するのは無理に等しい。結局、休業の要請があるまでは対策をとりながら営業を続ける、と決めた。
店としての対策は持ち帰りを推奨すること。行政から飲食店に対して要請されていたのは、客席の間を2メートル空けること、そしてお客さん全員の連絡先を記録すること。間隔をあけるのはそう難しくないが、感染経路追跡のための連絡先記録は結構ハードルが高いと感じた。でも仕方がない。実施が翌17日からだったので、この対策を折り込んで具体的に詰めていこうとした矢先に、17日からの飲食店営業停止が発表された。理由は上記要請の実施状況をチェックするのが難しいから、とのこと。もう全員でずっこけるしかなかった。
でも一方で、行政が決めてくれたことに対し、少しホッとしていた。
「自粛と給付はセットだろ」
日本で叫ばれているこの言葉を、まさにこの頃私たちは抱いていた。でも何もはっきりしていなかったので、すぐに自分たちで資金集めをする準備に入った。翌日には商品券(ドイツではプレゼントとしてよく使われ、元々多くのお店で用意されている)の販売と寄付への協力をサイトで呼びかけ、近隣の付き合いのあるお店、映画館やカフェ、レストランと連絡を取り合い、情報の共有を進めた。わりとすぐにケルン市内の独立系飲食店のグループが作られ、ケルン市政に向けた補償を求める文章の作成、現在使える補償のプラットフォームの共有もされた。この連帯のスピード感に、私はただただ驚いていた。
今、多くの人はドイツの補償は手厚い、素晴らしい!と思うかもしれないけど、私たちも、ただ期待して待っていたわけではなかったし、安心はできない状況だった。
ちなみにこの時点で、ケルン市内の感染者数は、300名程度。現在は、1,768名、死者数31名と発表されている。

3月23日に出された外出制限は、州によって若干の差はあるものの、主にこういうもの
①同居人や家族以外の、3人以上の会合の禁止
②レストランはテイクアウトとデリバリーのみ営業可能だが、テイクアウトを購入したお店の半径50メートル内での飲食は禁止
③他人との距離を最低でも1,5メートル以上はとる。これにより美容院やマッサージなど客との距離が取れないお店も営業停止

それぞれ罰則も盛り込まれ、強制力を持ってきたものの、外出禁止ではないし、散歩や一人でできるスポーツ(ジョギングとか)、サイクリングなどは健康維持のため推奨すらされている。この状況を、ドイツメディアはロックダウンとは呼ばないし、その線引きにはとても気を使っているように思う。ロックダウンに相当する外出禁止令を出したい州もあったようだけど、民主主義の原則を尊重した上で議論を重ね、上記のような外出制限におちついたのだろう。

明らかになってきた補償の話をします。これも州によって違いがある。かつ私が得られる情報は、お店のスタッフやパートナーからのものが主で、自分で情報を集めるほどのドイツ語能力はないので、私たちがお店としてもらえる補償、を紹介します。

①現金支給
ケルンのあるノルトラインヴェストファーレン州は、コロナ危機の影響で収入の落ちた小規模事業やフリーランス、アーティストへの支援金がある。条件の細かい点はわからないけど、従業員10名規模なら15,000€(約175万円)、5名規模なら9,000€(約105万円)、フリーランスやアーティストなど個人事業主には2,000€(約23万円)が上限とされる。私たちはフルタイムでの労働時間数で計算して10名規模なので、15,000€の支給が3月27日に決まった。3ヶ月に分割して支払いの話もあったが、結局一括して1週間後に振り込まれていた。
いつもは手続きが遅いお役所だけど、今回は驚きのスピーディーさ。申請手続については、お店の経理を外注している税理士に主導してもらったので、そんなに難しくはなかったようだ。

②給与補償
コロナ危機の影響で休業を余儀なくされた場合、事業を縮小せざるを得ない場合に給与(手取り)の60%を補償するというもの。社会保障については80%〜100%補償と聞いた。ただし、社会保障の対象外で働く人(学生や月収450€以下の人)には補償がない。ノビコも対象外の人がいたり、元々生活費ギリギリで働く人は60%では足りなかったりする。そこはもちろん全員の生活が成り立つよう調整が必要になってくる。補償がいつもらえるのかは未だに定かではなく、とりあえずお店で立替える必要がある。重要なのは、この補償が今のところ1年継続してもらえること。営業再開したとしても、当面はコロナ対策しつつ、規模を抑えて営業することになると考えているので。

③税金・家賃の支払い延滞
飲食店は売上の19%(テイクアウトは7%)を税金として支払っているが、半年を期限として延滞しても良いことになった。家賃もたとえ滞納しても契約破棄されないよう、法整備がされた。でもいずれ払わなければいけないお金なので、私たちは出来るうちは払うことにした。ちなみに寄付として集めたお金も、お店の利益として19%の税金が発生する。

そんなところだろうか。個人への一律給付はドイツでは行われない。それに対する不満の声は、知らないだけかもしれないけど、そんなに聞こえてこない。というのも、元々生活困窮者に向けての生活保護があるわけだし、失業者にも失業手当がある。生活保護は私も過去にもらった経験があるが、日本よりは貰えやすく、偏見も少ないように思う。ただ、お役所も今は相談窓口を制限しているようなので、手続に時間がかかるかもしれない。
これらの補償で、多くのお店はとりあえず生き残れるんじゃないだろうか。政府としては、失業者がたくさん出て、失業保険の申請をされるよりは、こういった補償で企業を生き残らせる方が、結果として支出が少ないとみたようだ。なかなかやりくり上手である。

ノビコもこれで、少なくとも5月末までは営業休止状態で存続できる見通し。もちろん商品券と寄付での支援も大きい。現時点でこれも15,000€に届こうとしている。本当にありがたいし、こういう危機に陥ったとき、ソリダリティ、連帯を示す、ということがすごく根付いている社会なんだな、と感じる。ノビコのスタッフも、はっきり言ってみんな貧乏なのに、給料はとりあえずいらない。生活保護でなんとかするので一度解雇してくれていい。など強気な事を言ってくる。今は補償によって、生活に必要最低限のお金を払えるようになったので良かった。
こういう発言が出る背景には、お店のスタッフの大半がアクティビストシーンの中の人で、こういう時に助け合うのは当然と考えている事、全員がシェアハウスに住んでいて、家賃が安く、同居人とも助け合える環境にいる事が大きいと思う。そういう意味で、ノビコの状況はかなり恵まれていると思うし、政府からの補償があったとしても、かなり厳しいお店、生き残れないお店も出てくるのだろうと思う。

今の生活についての印象や思うことについて。
私の今の生活は、2日に一度くらいはお店に行って仕事をしたり庭いじりしたりするけど、その他の外出は買い出しと散歩くらい。あとはずっと家にいます。お店に飾る写真の額縁を手作りしたり、家の掃除したり、日本の状況を心配しまくっていたり。あと、寄付してくれた人へ贈る木版画制作もやりたいし、最近ドイツでも、飛沫を軽減するためのマスクの利用が推進されてるので、自分で作りたい。結構やりたいこと盛りだくさん。
今ドイツの次なる対策として導入が決まったのが、アプリに登録することで、感染者の行動範囲に自分がいたらアラームしてくれる、というもの。例えば同じスーパーに同時間いた、とか。携帯電話の位置情報からできるシステムで、名前などの個人情報を渡す必要はない。登録は任意なので、どれくらい広まるかわからないけど、これにより、行動範囲や経済活動を今より広げられるんじゃないか、と期待している。個人情報保護に敏感な人が多いから、どうなんだろう。広がらないと効果も薄いだろうし。
いつもパートナーののび太と議論になることは、現時点でテイクアウトやデリバリーの営業が許可されている以上、やるべきなのかどうかってこと。やらない理由は、スタッフとお客さんの感染の危険性と、準備やコストに見合う収入が得られるかどうか疑問だから。周りを見ても、元々デリバリーで利益を得ていたはずの、よく行くピザ屋さんも営業をしていないし、デリバリーが以前より増えた、という現象もないようだ。やらない理由に納得しているつもりでも、どこか休業していることへの罪悪感を持ってしまうのは、誰もが大変な思いをしているコロナ危機の中で、楽をしているように見えてしまうのでは?という不安があるからかと思う。実際テイクアウト営業をしないのか、という問い合わせもあり、それが好意からだとしても、自分には謎のプレッシャーになって降りかかる。
こう考えることにした。今一番大事なことは、感染者の拡大を抑えること。なぜなら、医療崩壊を起こしたくないからだ。医療崩壊が起きれば、助かる命が助からなくなる。ニュースで見た、イタリアやNYのような状況になって欲しくない。
全ての対策はそのために練られているような気がする。金はやる。追い出しもしない。だから今はなるべく家にいろ。補償にはそういうメッセージがあるんだと。
お店の存在意義やら、自分がどれだけ頑張るかは、このコロナ危機においては小さなことだし、自分が感染するのが怖いかどうか、も実はどうでもいい。結局は、自分たちの住む社会が壊れないために医療体制が壊れないために、いかに協力できるかどうかが鍵なんだと理解した。社会は私たちがテイクアウトやデリバリーで動き回ることなど望んではいない。がんばるところはそこじゃない。そう言い聞かせている。
これは私の性格に起因する悩みでもあるけど、社会からのそういったプレッシャーは少なからずあると思うので、くれぐれも頑張りすぎないでほしい。
とりあえず落ち着いて、もうちょっと時間が経てば、本当に自分が役に立てることが見えてくるんじゃないかな〜、と思っている。

私の見る、町の様子はとても落ち着いている。危機感を持ちながらも、パニックにならないよう気をつけてるようにも思う。
そういう意識が持てるよう、ドイツ政府は対策を打ち出してきたと思うし、説明責任を果たしていると感じている。
良い国だ、と思うかもしれない。日本の政治の悲惨さを知ってる私もそう思う。でもこの国の人達は、ドイツ政府のだめなところも知っているし、いつでも容赦なく文句を言う。まあ私の周りの人は特に批判的に見るってのもあるけど、政治に口を出すのに、この国の人は慣れているなと感じる。民衆が政治をガン見してるから、政治も民衆を無視できない。そういう土壌をこのコロナ危機で改めて感じてしまった。

これは、日本と比較してどうかってことは、それぞれ気づくことがあるのかな、と思います。何もコロナ危機に始まった話ではないし、311以降、たくさんの人が日本政府のやり方に気づき、怒り、声をあげても、政治は変わらなかったのだから、それよりずっと前からの問題だと思っている。
もちろん良い変化もたくさんあった。希望が全くないとは言いたくない、

でも今は、とにかく今をどうするかってことですよね。
最近SNSを見ていると、休業を決めた上で、動いているお店や事業が増えてきているようで、いいぞいいぞ!と思ってます。ネットショップを充実させたり、ギフトカード販売したり、家でできることを始めてる。オンライン映画館、というのも見ました。
同時に、今ある経済政策で使えるものは使う。複雑でハードル高いと思うけど、きっとわかりやすく体験談などまとめてくれたりする人もいるだろうし、情報を共有していってほしい。
申請が複雑なら簡素化するよう求めましょう。大体業績悪化を書類で証明しろというが、飲食店や映画館などの接客業は、悪化するに決まっている。役所の窓口もきっと苦悩を抱えているはずだから、簡素化できたらありがたいはず。各地で学校や保育園が始まるらしいけど、現場で働く人は責任の重さに苦悩している人もいる。その人たちのためにも、できるなら休ませたって全然良い。今の楽観視してる空気に不安を覚えるなら、その空気を読むのすぐやめて、不安を優先してほしい。パニックは必要ないので、ひとまず家で休む。
そのことが、社会が医療が壊れないようにするために、役立つんじゃないかと思っています。

すごく長くなってしまいましたが、何かの参考になれば幸いです。自分も今の状況を客観視するために、書いてよかったです。読んでくれて、ありがとうございました。

 

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