ニコニコ通り

漫画、木版画、イラストなどなど、製作中。

2022年4月号

ロシアがウクライナに侵攻を開始して、100日が経過した。
そんなニュースをオーストリアでの休暇中に目にした。
YouTubeを開いて、戦況に関する日本語のニュースをチェックする。無惨に殺された市民のこと、厳しい避難生活について、戦争に関する山ほどの情報に触れることにも慣れてしまった自分に気づく。
アルプスでハイキングを楽しみ、サウナに行ったりレストランでビール飲んだりしながら、時々戦争のことを気にして、パートナーのノビタと話題にしたりする程度で、私の生活は平和そのものだ。

そのことが、ひどく申し訳ないような気持ちになることがある。
戦争が始まってすぐの3月初め頃は、人並にショックを受け、動揺もして、各国で巻き起こる反戦の声やSNSでのリアクションに耳を傾け、自分は何が言えるのか、悩んだりもした。ウクライナへの連帯の気持ちと、戦争が起きているのはウクライナだけではないのに、特別注目していることへの不平等感、多くの人が「国」というフィルターを通して人やモノをジャッジし始める気持ち悪さ、EU各国のウクライナへの武器支援について、色々思うことがありすぎて、「戦争反対」を掲げるだけでは足りないような、でも結局それしか言えないような。
モヤモヤ悩んだり、ロシア政府の言い分に腹を立てたり、たくさんの市民が巻き込まれていることを悲しんだりしながら、日々は過ぎていき、ウクライナでの戦争が、何だか日常のひとつになってしまっている事に、ふと気づく。

そんな風に慣れてしまう怖さもあるけど、でも本当に怖いのは、慣れに任せて忘れてしまうことだと思う。私たちの日常も、世界のどこかの戦争と関わりがあることを。鏡のように、同じ状況が自分の住む街にも起こり得るかもしれないことを。
それを理解するために、自分が住んでる国が他国と歴史的、経済的にどう繋がっているかを知るのが大事だし、戦争に自分たちの日常を破壊されないために、どういう方向に進むべきかを考えた上で、選挙にいくことや、お金の消費先を考えること、助け合える仲間を作ることが大事なんだと思う。自分達が「平和」のためにできることって、そういうことしかない。(私はドイツで選挙権ないけどね!)
3月中ば頃、そんな気持ちを、自戒も込めて、4コマ漫画にしてみた。

 

日本でもすでにそうかもしれないが、戦争の影響による物価の高騰は免れない。
ロシアからの石油の輸入がストップ→石油が足りなくなる→ガソリンが高騰→商品の輸送費が高騰→物価の高騰、という流れ。
ドイツのロシアへの天然ガスの依存度はもっと深刻なので、普通に家のガス代がどうなるのか心配だ。
ちなみにEU全体として、ロシアからの石油を輸入しないことを取り決め、ドイツはすでにストップしている。天然ガスについては稼働予定だった直通ライン、ノルドストリーム2は承認停止し、すでにあるノルドストリーム1は現在も稼働しているが、ストップすることも検討している。

こんな現実を突きつけられたところで、じゃあどうすれば、と思うかもしれない。
ドイツがエネルギー面で、ロシアに依存していることは、どうしようもないことなんだろうか。
そう思わされているだけで、輸入に頼らない持続可能なエネルギー政策があるとしたら?
暖のとり方も工夫次第で省エネできるのでは?

電気自動車がもっと普及されたら?

そもそもの移動手段を見直してみては?

輸送エネルギーのあまりかからない、産地を選んでみては?

急に状況が好転するわけではないけど、自分の手が届く範囲で変えられることがないわけではない。

ノビコでの材料の仕入れでも影響は大きく、特にアジアからの輸入品は、物価高のみならず品物が入らない事も増えてきている。品薄なのは、コロナの影響もあるかもしれないが。

一番大変なのは、食用油と小麦粉の不足で、一時期は、業務用がないから近くのスーパーを片っ端から周り、かき集めるしかなかったり、あっても値段が今までの3〜5倍はしたり。

でもこの問題の始まりは、みんなの戦争への不安から起きる、買い占めが一番の原因で、ドイツの小麦粉のほとんどは、自国産で賄えるのだそうだ。食用油もひまわり油はウクライナやロシアから来るが、菜種油も手に入らなかったのは、やっぱり買い占めによるものだと思う。
ノビコも一時期コロッケの提供をストップしたり、炒め油にはマーガリンを使用したりもした。さすがにうどんが作れなくなるのはマズイので、小麦粉はメーカー問わず色々試したけど、いつものようなうどんが作れず、種類は同じでもメーカーによってこんなに違うものなのか!という発見もあった。その後はぼちぼち手に入るようになり(値段は2〜3倍するが)、小麦粉は新たな仕入れ業者を見つけたり、油は、もともと高い為値段の変動がほぼなかったオーガニック油を、これを機に使い始めたりしている。
近場のものをフェアな値段で仕入れることは、ノビコにとって大事なテーマではあったけど、こんなに切実に考えるべき時が来るとは。秋から天ぷらの再開も考えているが、揚げ物油をどこから安定的に仕入れることができるのか、悩みどころである。

 

ドイツ政府はというと、こういった物価の高騰による生活への圧迫を配慮し、3つの政策を始めた。
一つ目は、ドイツ国内どこでも、一ヶ月9ユーロで電車・バスのり放題(特急は除く)のチケットの販売を3ヶ月限定で販売。6月から始まり、私ももちろん購入予定。9ユーロならケルン市内に2回行くだけで元が取れてしまう、お得さだ。
二つ目は、ガソリン代の税金免除。これでガソリン代は多少安くなるはずだったんだけど、ガソリンの会社がズルして値段を下げず、税金分丸儲け状態になり、早速問題化しているそうだ。。ただでさえ戦争の影響でボロ儲けしてるくせに!ほんとでかい会社はやることがセコイ!
三つ目は、ドイツ国内の就労者全員に300ユーロを給付する、というもの。子供や学生、年金受給者は対象外。これはまだ給付されていないけど、色んな議論が巻き起こりそうな予感。。。
何にせよ、ないよりは断然あった方がいい政策だし、試してみる価値はあると思う。

自分としては9ユーロチケットが一番嬉しいけど、多くの人が電車を使い始めて、満員電車になったり、本数や人員など鉄道会社のキャパを越える可能性もある。でもそれで止めるよりは、新たな課題として取り組んで、安い電車のチケットは今後も維持して欲しいなぁ。

こういう政策が出てきて、ドイツ政府は素晴らしい!なんて思う人がいるかもしれないけど、本当に素晴らしいのは、政府が市民の生活を無視しないよう、しっかり見張って批判もちゃんとして、無視出来ない空気を作ってきた有権者のみなさんだと思っている。もちろん完璧な政府など存在しないし、この政策にも批判はたくさんあるだろうけど、それでいいのだ。批判も議論も常にあるから市民の力が衰えない。

そうやって市民の力を見せつけておかないと、政治権力を持ってる奴らは暴走するって、ロシア政府見てたら明らかだもんね。まあ今のプーチン政権の暴走をロシア市民のせいにするのは浅はかだけど。
日本も今年の参議院選挙、どうにか反自民勢力を拡大しておかないと、次の3年、何が起きるかわかったもんじゃない。もし自民党憲法改正なんてされたら、それこそロシアの二の舞のような、生きづらい世の中になるんじゃないか?国政選挙は、私もドイツから投票できるので、他人事ではない。

 

日常と、社会と、政治と、戦争と。
切っても切り離せない中で、私たちも生活しているんだと、何度も何度も。
どうせ慣れるなら、そういったことを知ること、考えることに慣れた方がいい。

 

色々長々と書いたけど、私もまだまだ、道半ばです。