ニコニコ通り

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2022年10月号

ノビコがスタートした当初から、何度も何度も頭を悩ませ、苦渋の決断をせざるを得ないことがある。

 

そう、値上げである。

 

ノビコ、初期の値上げは、正直私たちの考え方の甘さが露見した結果だった。様々な失敗も相まって、経営が立ち行かなくなり、適正価格を考えたら値上げせざるを得なかったのだ。

そもそも私たち自身が安くて美味いお店に憧れていたために、もしお客だったらこれくらいで食べたいな〜、という基準で決めていたのがよくなかった。麺もスープも手作りで、当初の安さをキープするにはそれだけ自分たちの身を削って働かないと無理だと気づいたし、人件費がどれほどかかるのか、という現実を知ったというのも大きい。

ドイツにおける人件費は、日本よりもはるかに大きいと思う。日本との大きな違いは、ドイツでは病気で仕事を休んだ場合も給料は保証されること。そして有給休暇をみんなしっかり取ること。この二つの違いはカルチャーショックでもあったほどで、私も日本にいた時は時間給で働くアルバイトが、働いた分しか給料貰えないのは当たり前、と思っていたし、そして有給休暇というのは、病気や忌引きなどどうしようもない時に使う手段だと思っていた。たまにマジの休暇のために取ったとしても、連休と繋げて1週間が関の山。

病気になっても給料に影響しないこと、そして休暇をちゃんと取れること、がどれほど心の余裕につながるかを実感し、労働者の大事な権利だと理解したし、自分たちがレストランでご飯を食べる時も、安さ重視な考え方は、労働環境の改善を妨げるものだと考えを改めた。まあそれは私個人の話だけど、ノビコとしてもその人件費がどれほどのものなのかを学び、シビアに向き合わないといけなくなった。

だからこそ値上げの際は、お客さんにも理由をきっちり説明したし、社会全体で考えてほしい、協力してほしい、という願いも込めていた。

そこから数年間、コロナで店の経営もわちゃわちゃになり、なんとか生き延びたと思ったら、今度はロシアのウクライナ侵攻。それによるエネルギー危機。その都度私たちは、必要に応じて値上げという選択をしてきた。お店が存続するためには仕方がない。

そして、物価が上がったんだから、最低賃金も上げないと生活できないよね、という真っ当な流れで、2022年の10月から、最低時給は12ユーロに引き上げられた。実際には段階的に上がったのだが、一年前に比べれば、2ユーロも上がっている。

ノビコのスタッフには、恥ずかしながらこれまでもほぼ最低賃金しか払えていなかった。(ほぼ、と書いたのはドイツにはチップを払う文化がある為、その分はスタッフ全員と分け、現金で渡しているため)

飲食店ではどこもそんなものだが、最低賃金が上がれば、当然人件費はもっとかかる。仕入れの値段も上がっているので、やっぱり今回も値上げはやむを得ない。

とまあ、そんなこんなで4コマ漫画にも描いたのが、去年の10月のお話。

ノビコが始まって以来、私の頭の中では何度も何度も高田渡さんの「値上げ」が鳴り響いているのだ。

 

そして来年から、さらに2ユーロ最低時給を上げる案が政府から出ている。

インフレ中のドイツでは当然といえば当然なのだが、それを聞いて、手放しで喜べないのが経営者の悲しいところ。3人で顔を見合わせ、ため息をつく。

因みに、私たち3人の給料は、時給に換算すればいまだに12ユーロ以下なのだ。生活できればそれで良い、ノビコの事は半分趣味、くらいには思っているが、インフレの状況次第では私たちの給料も上げないと、流石に厳しい。

 

値上げをするときいつも思うのは、お金持ちばかりを相手にするお店にはなりたくない、ということ。だから恐る恐る周りのお店の値段も見つつ、社会の価値観が変わっていくのと合わせながら、安くはないけどべらぼうに高くはないラインをいつも探っている。

とはいえ、貧富の差は確かに存在し、インフレで生活がもっと苦しくなったと感じれば、外食は結局贅沢なものだと切り捨てられるのではないか。そう思うと怖いしやっぱり少し残念だ。

それでも。週に一度来てくれていたのが、月に一度になったとしても、ノビコにお客さんが楽しみの一つとして来てくれるためには、魅力あるお店であり続ける必要がある。

値上げするだけでは足りない。

というか、値上げするだけではつまらない。

その分もっと、自分たちが楽しみながら店を作っていって、それをバンバン見せていこうと思っています!